風雨橋(ふううきょう)
トン族(侗族)の人々は、山間の谷間に水辺を利用して集落を築くことが多く、生活の上で川を渡る橋は不可欠な存在である。なかでも「風雨橋(ふううきょう)」と呼ばれる屋根付きの橋は、単なる交通手段としての機能を超えて、村人たちの憩いの場としての役割も果たしている。
風雨橋には、美しく装飾された木造の屋根が架けられており、橋の上に雨や風をしのぐための休憩スペースが設けられている。村人たちは日中の作業を終えると、ここに集まり夕涼みを楽しみ、世間話を交わす。また、若者たちにとっては、歌垣(うたがき)を通じた交流の場ともなっており、恋愛感情を歌で伝え合う重要な社交空間でもある。
このような風雨橋の構造には、伝統的な木組み技術が用いられ、釘を一切使用しないという特徴がある。精巧な梁組や楼閣風の装飾が施され、橋全体が一つの建築芸術としても高く評価されている。風雨橋は、トン族の建築文化や共同体生活の象徴的存在であり、今日ではその美的・歴史的価値から多くが重要文化財や観光資源として保護・活用されている。