鼓楼(ころう)
中国南部に居住する少数民族・トン族(侗族)は、かつて漢民族による政治的・経済的圧迫から逃れるかたちで山間部へと移住した歴史を持つ。こうした地理的・歴史的背景のなかで発展したのが、「鼓楼(ころう)」と呼ばれる独自の木造建築である。
鼓楼とは、楼閣の上層部に太鼓を吊るした塔のことで、もともとは村における緊急連絡のための施設として機能していた。戦乱や盗賊の襲来といった有事の際には、この太鼓を打ち鳴らすことで村人たちに警戒を呼びかけ、速やかな集結を促す役割を果たしていた。
現在では、その防衛的機能は薄れたものの、鼓楼は依然としてトン族の共同体生活の中心的存在であり続けている。鼓楼は村人が日常的に集う場であり、重要な会議の会場、伝統的な祭礼や芸能活動の舞台、さらには外部からの来客をもてなすための迎賓空間としても利用されている。建築的には、釘を一切使わずに木材を組み上げる高度な技術によって建てられており、地域ごとにその意匠や高さ、屋根の層数に違いが見られる点も特徴的である。
このように、鼓楼は単なる建築物ではなく、トン族の社会構造や精神文化を象徴する空間として、今日に至るまで村の生活と密接に結びついている。