翻訳:趙 林飛
修正:須崎 孝子
監修:姚 武強
補筆・再構成:CJ NaoTo
ドクダミ(学名:Houttuynia cordata Thunb.)は、中国の『薬典』(いわゆる中国薬局方)にも記載されている代表的な薬用植物であり、東アジアを中心に広く分布する多年草です。草丈は30〜50センチほどで、独特の強い臭気をもつことから、中国語では「魚腥草(ユイシンツァオ/yúxīngcǎo)=魚のような生臭い草」とも呼ばれています。
薬性としては「寒性」に分類され、味は「辛味」が主体とされています。伝統医学においては、体内の熱を冷ます「清熱解毒(せいねつげどく)」の作用があるとされ、特に呼吸器系の炎症や感染症の治療に用いられてきました。
現代の薬理研究では、ドクダミに含まれるフラボノイド類やアルカロイド類などの成分が、血圧降下作用や動脈硬化の予防、さらには血糖値の抑制に寄与することが示唆されており、高血圧や糖尿病の予防に有用とされています。
なお、貴州省など中国南部の一部地域では、ドクダミの根を「折耳根(ヂェアルーグン/zhé’ěrgēn)」と呼び、日常的に食用としても親しまれています。特に細く切って生で食べることが多く、サラダや和え物などに用いられています。独特の香りと辛味があり、薬膳料理や民族料理において重要な役割を担っています。
ドクダミの薬理作用について
ドクダミ(Houttuynia cordata)は、古来より東アジア地域で民間薬として用いられてきた薬用植物であり、近年ではその有効成分と薬理作用について、現代医学・薬学の観点からも研究が進められています。以下に、主な薬理作用を挙げます。
1. 抗菌作用
ドクダミ特有の強い臭気は、その揮発性成分の一つであるドクダミ素(癸酰乙醛:decanoyl acetaldehyde)によるものであり、この物質がドクダミの主要な抗菌成分とされています。
ドクダミ素は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)をはじめとする多種多様な細菌に対して強い殺菌作用を示すことが、近代的な薬理研究により明らかになっています。そのため、感染症予防や皮膚疾患の治療補助としても利用されています。
2. 利尿作用
ドクダミに豊富に含まれるフラボノイド類(特にクエルセチンやルチンなど)は、腎機能を促進し、体内の余分な水分や老廃物の排出を助ける利尿作用をもたらします。この効果は、むくみの改善や高血圧の補助療法としても注目されています。
3. 消炎作用(抗炎症作用)
臨床研究および民間療法の実践において、ドクダミは胃粘膜の損傷修復や消化管の炎症軽減に有効であると報告されています。加えて、以下のような疾患にも効果が認められています。
⚫︎副鼻腔炎(蓄膿症):粘膜の炎症や膿の排出を改善。
⚫︎アトピー性皮膚炎:皮膚の炎症やかゆみを軽減。
⚫︎気管支炎・肺炎:呼吸器系の炎症性疾患に対する補助療法。
これらの消炎作用は、ドクダミに含まれる精油成分や多糖類による免疫調節作用とも関連しています。
4. 免疫力の強化・血管保護作用
ドクダミは、免疫機能の活性化にも寄与するとされており、特に毛細血管の強化や血液の流動性向上(いわゆる「血液をサラサラにする効果」)が報告されています。
これは、フラボノイドの抗酸化作用や、前述のドクダミ素による抗菌・抗炎症作用と連携する形で、体内の自然免疫を高める効果をもたらしていると考えられています。
以上のように、ドクダミは単なる伝統薬草にとどまらず、現代医学においても注目される多機能な天然素材として位置づけられています。特に、抗菌・抗炎症・利尿・免疫調整といった幅広い作用は、生活習慣病や慢性炎症性疾患への応用可能性を秘めており、今後の研究の深化が期待されます。
伝承と物語
昔、ある貧しい村に、親不孝な夫婦が住んでいたと伝えられています。この夫婦は、視力を失った年老いた母親を家に抱えていながら、日頃から粗末に扱い、まともに世話をすることもありませんでした。
ある日、母親が重い病を患いましたが、夫婦はそれを機にさらに冷たくあたり、治療を施すどころか、かえって母を責め立てるような言動を重ねていました。
それを見かねた隣人が哀れに思い、母親を見舞って魚を煮て持っていきました。ところが、夫婦はその魚を母に与えず、自分たちだけで密かに食べてしまったのです。
息子は、再び隣人が訪ねてきて真実が明るみに出ることを恐れ、母親に嘘をついてごまかそうとしました。山の斜面に自生していた、強い生臭さを放つ野草を採ってきて、それを煎じて「魚のスープだ」と偽り、母親に飲ませたのです。
しかし、善良な母は息子の言葉を疑うことなく信じ、その草の煎じ汁を何杯もありがたく飲みました。すると不思議なことに、長く患っていた病がみるみるうちに快方に向かい、ついには完治したと伝えられています。
この出来事は村中に知れ渡り、母をないがしろにした夫婦は非難を浴びる一方で、母の病を癒やしたその野草の効能が広く知られるようになりました。人々はその草を「魚のような生臭いにおいがする草」という意味で「魚腥草(yúxīngcǎo)」と呼ぶようになり、その後も薬草として珍重されてきたのです。
魚生臭い草(ドクダミ)の地域ごとの食文化 ― 特に貴州省における用例
「魚生臭い草」とも呼ばれるドクダミ(Houttuynia cordata)は、その独特の風味と薬効から、中国南部をはじめとする地域では食材としても広く親しまれています。特に中国南西部・貴州省では、日常的な家庭料理に取り入れられており、地域独自の食文化が形成されています。
貴州における代表的な調理法は以下の通りです:
1、生食(冷菜・和え物)
新鮮なドクダミをよく洗浄し、細かく刻んでから、唐辛子、ニンニク、酢、塩、醤油、香菜(パクチー)などの調味料と和えて供します。シャキシャキとした食感と清涼感のある香りが特徴で、暑気払いの前菜として人気があります。
2、炒め物
ドクダミの根や茎をベーコンや干し肉、もしくは塩漬け肉とともに炒める料理も一般的です。燻製肉のコクとドクダミの香味が絶妙に調和し、滋養に富む一品として親しまれています。
3、調味ソースへの加工
刻んだドクダミを他の香味野菜(青唐辛子、ショウガ、ネギなど)と混ぜ、発酵調味料や酢、油などとともにすり合わせて、ディップソースや和え物のたれとして用いることもあります。特に魚料理との相性が良く、さっぱりとした後味を引き立てます。