貴州飲食

水城烙鍋(すいじょうらくなべ)

2020-05-11

翻訳:左 沁怡

修正:須崎 孝子

監修:姚 武強

補筆・再構成:CJ NaoTo


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水城烙鍋は「貴州人の郷愁」とも称される郷土料理であり、貴州省六盤水市水城区(旧水城県)を代表する名物料理である。近年では、貴州省各地に広く普及している。


辛さの中にもさっぱりとした風味があり、豊かな香りによって食欲をそそる。油分が多くても重く感じさせず、飽きがこないことが水城烙鍋の大きな特徴である。


2001年には、水城の老舗「全有福烙鍋」が中国中央テレビ(CCTV)の選定する中国西部の特色料理として、「西部の名物料理の一つ」の称号を授与された。さらに、2003年に開催された第1回「中国民間民族料理華西部グルメ祭り」においては、台湾を含む114チームの中から第4位に選出され、特別金賞を受賞するなど高い評価を得た。



歴史的背景と発祥


水城烙鍋の起源は清代にまで遡ることができ、およそ300年の歴史を有している。『水城庁志』の記録によると、康熙3年(1664年)3月、平西王・呉三桂が雲南の十滇から2万8000人の兵を率いて帰集を出発し、水西(現在の水城)に入城した。これは当地のイ族による反乱を鎮圧するためであった。


しかし、水西に到着後、軍の食糧は不足し、やむなく兵士たちは屋根瓦や漬物が入っていた磁器片を火にかけ、狩猟で得た野生動物や野菜を焼いて食した。こうした窮余の工夫が、のちに「烙鍋」という独自の調理法へと発展していったのである。


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調理器具の変遷と発展


清朝末期には、中央が凹んだ瓦や陶器片を使った簡易な鍋が使用されていたが、時代の進展とともに中央が突起した黒砂の鍋に置き換わった。これは、鍋の中央に油が溜まらないようにし、周囲に流れる油を再利用できるよう設計されたもので、油の節約と風味の向上を両立させた合理的な形状であった。


当初の材料は、ジャガイモ、野生動物、地元の野菜などであったが、臭豆腐などの発酵食品も加わり、香辛料やチリパウダーなどで味付けして食べられるようになった。1953年には、1950年に創業した「胡声振烙鍋」が水城県で最初の「飲食企業登録証」(現在の営業許可証)を授与されている。



現代への展開と革新


改革開放政策以降、水城烙鍋は屋台形式で町中に出現し始めた。1986年には、胡文倫が父の跡を継ぎ、同業者と協力して従来の黒砂鍋を平らで縁付きの鍋に改良し、鉄製やガス式のコンロと組み合わせて使用するようになった。


1992年以降、水城烙鍋は専門レストランへと発展し、さらに烙鍋を中心とした飲食街が形成された。食材も魚介類、家禽類、野菜など多様化し、調味料も従来の単一的なものから、ドクダミとチリパウダーを混ぜた薬味や、焼きピーマンを使ったタレなど、多種多様なスタイルが登場した。


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2001年のCCTV番組『西部へ収集に行く』では、水城烙鍋が再び「西部の名物料理の一つ」として取り上げられた。その後、貴陽市、安順市、畢節市、興義市、遵義市、さらには雲南省昆明市にも進出し、マーラータン火鍋に取って代わる人気料理として広く親しまれるようになった。


2006年には「全有福烙鍋」が中国民族民間料理華西村グルメ祭、中国西部博覧会、貴州省特色グルメ祭に参加し、栄誉を獲得。その後、店主は現代の飲食文化に合う新たなスタイルとして「第四世代」の電磁調理器付き烙鍋テーブル(電磁烙鍋)を開発。これにより、顧客自身が様々な食材を自ら焼いて食すという体験型の飲食スタイルが定着した。



食べ方と文化的広がり


現在では、季節を問わず街角の屋台やレストランで水城烙鍋が提供されており、家庭的で気軽に楽しめるセルフサービス形式も普及している。食材の種類や設備の充実とともに、食べ方もより柔軟になり、地域に根差した日常の食文化の一部として定着している。


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材料と作り方


主な材料:

ジャガイモ(適量)、各種野菜(キャベツ、セロリなど)、肉類(豚肉、牛肉、魚、鶏の内臓・皮など)、加工肉製品、きのこ類(えのき茸、野生きのこなど)、臭豆腐、豆腐など。


調味料:

菜種油、チリパウダー、花椒(ホアジャオ)、ピーナッツ、ごま、塩、うま味調味料など。


作り方:


1、ピーナッツとゴマを炒め、チリパウダーと花椒を砕いて混ぜる。塩とうま味調味料を加える。


2、ピーナッツとパプリカを2:3の割合で混ぜ、バランスよく調合する。


3、出来上がったチリパウダーを小皿に取り分ける。


4、浅めのフライパンまたは特製の土製鍋に適量の菜種油を入れる。


5、油を中火で熱し、温まったら野菜を入れて焼く。


6、肉類は事前に塩、うま味調味料、醤油、サラダ油、少量の片栗粉と混ぜ、油が十分に温まったら加熱して焼く。


7、好みの具材を随時加えて焼いていく。


8、火加減を調整しながら野菜や肉を均等に加熱する。


9、焼き上がった具材をチリパウダーにつけて食べる。


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食後の勧めと地域的特色


水城烙鍋は美味であるが、油分や香辛料が多いため、食後には緑豆湯やお茶を飲むのが望ましい。また、マンゴスチンを食べるのも身体を冷やすのに適している。


食事中には、氷粉(ひょうふん)、甜酒餅(甘酒を用いた餅)、蕎餅(そば粉の餅)、酸菜豆米(漬け野菜と豆入りご飯)などを一緒に注文すると、より地元色豊かな味わいが楽しめる。さらに、辛い腐乳や蒸蒸糕(蒸し菓子)を焼いて食べるのも格別である。


水城烙鍋は、様々な具材を自由に組み合わせて楽しめるという点で火鍋に近いが、その調理法と味付けには地元ならではの独自性があり、地域文化を象徴する料理として高く評価されている。