翻訳:楊 順佳
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:CJ NaoTo
花山節に関する文化人類学的考察
「花山節」(かざんせつ)は、「踏花山」「跳花場」などの異称でも知られ、中国南西部の貴州省西部、四川省南部、雲南省東南部に広く分布するミャオ族(苗族)の間で受け継がれてきた伝統的な祭礼である。
この祭礼は、地域的な多様性を大きな特徴としており、呼称や開催時期、儀礼の具体的な形式は居住地ごとに異なる。たとえば、貴州省西北部に位置する鉄盔(てっき)地域では、毎年旧暦の正月6日から8日にかけて「花山節」が開催され、多くの人々が民族衣装を纏い、周辺地域から一堂に会する。
祭礼の冒頭では、族長が儀礼の開始を告げる。続いて若者たちは蘆笙(ろしょう)を奏し、娘たちは中央に立てられた「花柱(花山)」を囲んで舞踊を披露する。これらの舞は、単なる芸能としての表現にとどまらず、集団の中での結束や、若者同士の交流・求愛の場としての機能をも有している。舞踊や演奏には、個々の技巧や衣装の美しさが問われ、互いに競い合う場としての側面も顕著である。
また、地域によっては競馬や弓術(弓道)などの競技が併催され、祭礼空間は一種の祝祭的共同体として機能する。これらの活動を通じて、ミャオ族の若者は自己表現の機会を得ると同時に、異性との出会いを通じて将来の婚姻につながる関係を築いていく。
なかでも注目すべきは、歌掛け(歌による求愛)や楽器の演奏を通じた恋愛儀礼の存在である。青年たちは蘆笙、簫(しょう)、笛、口弦(こうげん)などの民族楽器を用いて想いを伝え合い、娘たちはそれに応えて刺繍入りのハンカチや手製の飾り帯を贈る。これらの贈答品は、単なる装飾品ではなく、相手への誠意や感謝、恋慕の情を象徴する文化的記号として機能している。
花山節は、農閑期における娯楽の場としてだけでなく、ミャオ族社会における世代間の連続性、伝統文化の再確認、そして婚姻関係の形成という重要な社会的機能を担う祭礼であると言える。