翻訳:楊 順佳
修正:宮澤 詩帆
指導:王 暁梅、楊 梅竹
監修:姚 武強
補筆・再構成:CJ NaoTo
「四月八(しがつはち)」祭りは、中国南西部に居住する苗(ミャオ)族の間で古くから受け継がれてきた伝統的な祭礼であり、英雄的祖先への崇敬と民族的記憶の継承を目的とした重要な文化行事である。旧暦四月八日に開催されるこの祭りは、苗族の祖先や伝説的英雄を追悼・顕彰する日とされ、多くの地域において広く執り行われている。
祭り当日には、各地から多くの苗族の人々が指定された祭場に自発的に集まり、蘆笙(ろしょう)や口笛の音にあわせて輪になって舞い、歌を掛け合う。特に「飛歌(ひか)」と呼ばれる即興の歌は、苗族文化における口承伝統の一つであり、祝福や歴史の語りを通して共同体の結束を深める役割を果たしている。
また、「刀梯(とうてい)」と呼ばれる鋭利な刃の梯子を素足で上り、「火輪(かりん)」と呼ばれる火の輪をくぐるなど、観衆を驚嘆させる儀礼的な演目も行われる。これらの行為は、祖先への畏敬の念と民族の勇敢さを象徴する重要なパフォーマンスとされる。
「四月八」の由来については諸説あるが、最も広く知られているのは、苗族の伝説的な英雄・蚩尤(しゆう)を記念するものであるとされる。蚩尤は古代中国における黄帝との戦いに登場する武勇の象徴的存在であり、苗族の祖先と目されてきた人物でもある。この英雄的な人物への敬意が、今日の祭礼に結実しているのである。
当日は、黒米を炊いて食す習慣も見られる。黒米は豊穣と健康の象徴であり、神聖な食物として祖霊への供物にも用いられる。こうした食文化もまた、祭りにおける重要な要素の一つである。
「四月八」祭りは、苗族の歴史的記憶と精神的アイデンティティを強く象徴する祭礼であり、世代を超えて受け継がれる文化遺産のひとつとして、現在もその意義を失うことなく生き続けている。